年金制度のゆくえ

年金制度については、多くの国民が今のままではもたないと思っていることは間違い無いだろう。2019年9月に五年に一度の「年金の健康診断」と言われる財政検証が公表された。それを基に2020年5月に年金制度法が改正された。小手先の改正ではなく抜本的な改正が求められるが、今後年金制度はどうなっていくのであろうか。

令和元年財政検証のポイント

年金給付の目標は、所得代替率(年金を受け取り始める時の年金額/現役男子の手取収入)50%を維持することとしている。今回の検証では、将来推計人口を基に、労働参加、経済成長を6つのケースに分け、所得代替率50%以上を確保できるか否かを検討している。2019年の所得代替え率は61.9%、しかし6つのいずれのケースでも2040年代半ばに50%に到達してしまう。経済成長と労働参加を促進することが、年金水準の確保のために重要とし、5つのオプションが示された。

  • 厚生年金適用者の拡大
  • 基礎年金保険料の65歳までの納付期間の延長
  • 在職老齢年金の見直し
  • 厚生年金の加入年齢の75歳までの引き上げ
  • 受給開始時期の選択肢(75歳まで)の拡大

令和2年年金制度法改正のポイント

2020年5月に年金制度法が改正された。上記オプションの一部を具現化した以下の内容だ。いずれも平均寿命の延伸に伴い、高齢者の雇用を促すための改正である。

(主な4つの改正)

⒈ 厚生年金の適用拡大 

  週20時間以上勤務の短時間労働者にも適用(50人超の企業2024年10月施行予定)

⒉ 在職老齢年金制度の見直し

  定年後に就業した場合に年金額が支給停止される報酬の基準額の引き上げ

⒊ 受給開始時期の選択肢(75歳まで)の拡大

  75歳まで繰下げの選択を可能に。なお、繰上げた場合の減額率は月0.5%から0.4%に改正 

⒋ 確定拠出年金の見直し

  加入可能年齢の引上げ、受給開始時期の選択拡大、企業向け制度の改正など

年金制度の実態

わが国の公的年金は、軍人等の恩給に起源を持ち、第二次世界大戦前の昭和15年から始まった。その後、昭和36年には国民皆年金が実現し、昭和60年には年金制度が大改正され、基礎年金制度が導入、給付水準が適正化され、第3号被保険者いわゆる専業主婦の制度ができた。昭和60年と比較し現在平均寿命は7年ほど伸びている。単純に7年伸びればその伸びた分だけ年金受給開始年齢を後ろ倒ししないと年金制度が持たないことになる。

年金財源確保のため、民主党政権時代、基礎年金部分に半額税金を当てることを決めている。また、平成13年からGPIFが年金積立金を株式や債権で運用し始めた。これについては賛否両論あるが、平均的なリターンがプラスになることを考えれば決して悪い政策ではない。ただ、徐々にリスクの高いポートフォリオを組んでいるところに政府の無謀性を感じる。

年金制度のゆくえ

今後年金制度がどうなっていくのだろうか。今回受給開始年齢を75歳まで引き上げた。現状の受給開始年齢の割合は、60歳が約3割、65歳が約7割、70歳は1%に満たない。今回の改正で75歳から開始する人が増えるとは到底思えないが、いずれ保険料徴収を65歳まで、受給開始年齢を65歳から75歳までにすることを射程に入れてのことであろう。すると、現在一人の高齢者を1.8人で支えなければならないのが、あっという間に2.8人で支えることができるようになるのだ。

高齢になっても公助は期待するな、自助で稼げというのが政府の政策である。世論調査では、60歳以降も働くことを希望すると答える人は多い。ただ、その理由が生活のためという割合がかなり高いのも事実だ。スキルの無い高齢者が就ける仕事は限定され、酷暑極寒のなか道端でガードマンをしている方を見る度に胸を痛めるのは私だけではないだろう。

年金制度が将来的に明るいとは思えない話をしてきたが、実は筆者は楽観している。年金の議論を避け続ける国会だが、いずれは真剣に議論をする時期がくる。その時のために我々は年金制度の改正に見識を持った国会議員を選ばなければならない。

そして真実は、社会保障については国が国債を発行して資金を手当てできるということである。つまり年金の財源を心配する必要はないのだ。その事実は次回のコラムに掲載する。