MMTに進路を取れ

M M T(Modern Monetary Theory 現代貨幣理論)という言葉を聞いたことがある人も多いと思う。

M M Tは新しい(といってもそれほど新しくもないのだが)経済学の学説であり、その主張をざっくり言うと、「通貨主権国(日本は円という通貨主権国)は財政破綻はあり得ず、国の財政赤字を気にすることなく通貨を発行」でき、管理する必要があるのは「インフレ率」ということである。

今のコロナ禍で、日本政府は国債の発行をなるべく抑え補償を渋っている。しかしこのM M T理論が正しいのであれば、補償費は国債を発行することにより十分に手当てできる。自粛と補償をセットにすれば良いだけの話であり、経済対策か感染対策かと言う二者択一の議論をいつまでもしている必要はない。

本年度の新規国債発行額は約112兆円と初めて100兆円超えた。昨年は約32兆円なので、コロナ対策で約80兆円増やした形だ。国民一律給付金10万円には約12兆円が使われた。それでも十分に補償が行き渡っているとは思えない。国債で借金をしたら財政健全化が遠のき、将来世代にツケを回すことになるというのが、主流派経済学者や財務省の主張である。しかしこれがいかに間違った政策であるかがM M Tで暴かれてしまった。

以下M M Tの主な主張を見ていこう。

家計でお金は作れないが、政府は自らが使う通貨を発行できる

一般家庭では収入を得てから支出を決めるが、政府は財政出動が先にあり、後から税金と国債で補填する。通貨主権国は国債発行により通貨を生み出すことが可能なのだ。通貨の発行体である政府が先に家計にお金を渡すからこそ、税金を徴収し国債も買ってもらうことができる。全ての財源を国債とするわけにはいかず、税金はインフレ圧力を管理したり所得の再配分をするために必要である。

政府の支出の限度は、財政赤字ではなくインフレである

貨幣の量が多すぎて物価が安定せずに極端なインフレが起こることは問題である。M M Tも財政支出を無限にできるとは主張していない。限度は許容する(マイルドな)インフレ率としている。主流派経済学者は物価安定には一定の失業はやむを得ないとしているが、M M Tはインフレをコントロールする手法として完全雇用した場合の経済の生産能力に注目する。

国家の債務は国民に負担を課すものではない

政府が国債を新たに100兆円発行すると、政府の債務が100兆円増え民間の資産が100兆円増える、それが真実である。現在日本政府の発行した国債の約半分を日銀が保有している。日銀はお金を刷って一晩でこの国債をお金に変えることができる。民間部門が所有している国債も日銀がお金を刷って(利子を付けて)買い取ればいいだけの話、つまり国債はいつでも現金に変えられる民間部門の資産なのである。

※日本政府と日銀を合わせて統合政府とする考えが前提。ただし国庫と日銀を分けたとしても結果は同じになる。

財政赤字は国民の富と貯蓄を増やす

主流派経済学者は、政府が資金需要を賄うために大量の国債を発行すると市中の金利が上昇するため、民間の経済活動(投資のための資金調達や住宅購入などの消費行動)に抑制的な影響クラウディングアウト(押し退け効果)が発生し国民を貧しくしてしまうとしている。(政府の赤字→民間部門の赤字化)しかしM M Tは、通貨主権国の中央銀行は自ら政策金利を決められるのでクラウディングアウトは発生せず、会計等式の通り政府の赤字=民間部門の黒字としている。

貿易赤字は「(品)モノ」の黒字を意味する

貿易赤字は悪いことのように思える。しかし、そのことにより国内には豊かな財が流通する。会計から言うと、政府の赤字=国内民間部門の赤字+外国の黒字という式が成り立つ。国内民間部門の赤字を黒字に転換するには、更に政府が赤字を増やすか、貿易赤字を減らすために通貨の価値を抑え、財やサービスの競争力を高めることである。通貨の価値をコントロールすると言う意味では変動相場制をとっている国の方が通貨主権国となりやすい。

政府には社会保障給付を支える余裕は常にある。重要なのは、国民が財やサービスを生み出す能力だ

高齢化に伴い社会保障費がどれ程膨らんでも、給付を賄う政府には支払い能力があるので資金不足の問題はない。問題は制度の構築と、給付に見合った財やサービスを提供するための生産能力、つまり例えば看護や介護の担い手が十分にいるかということであり、それを超えてしまうとインフレになってしまう。

まとめ

M M Tは貨幣に対する考え方であり、その部分は納得できても主流派経済学者はM M Tの経済理論には賛同できないようである。主流派経済学者の理論で行われてきた財政運営を転換するのは極めて難しい。天動説を信じていた人たちに地動説を理解してもらうようなものである。

M M Tはケインズ経済学(大きな政府)の流れをくむ。昨年M M Tの第一人者アメリカニューヨーク州立大学ステファニー・ケルトン教授が来日した。このことによりM M Tという言葉を多くの人が知る機会となった。

M M Tが日本に紹介されたとき最初は嘲笑されたが、今は批判の段階にあり、いずれは受入られる時代に入っていくのだと思う。

20年以上デフレが続いてきた日本経済を立て直すには、緊縮財政を辞め、早い段階で大胆に財政出動していく必要がある。そのために我々はこの理論を正しく認識した上で、反緊縮を訴える政治家を選ぶ必要がある。また財政出動によるお金は、富裕層(金融経済)に回るのではなく、困窮層(実体経済)に流れるようにしなければならないのは当然のことである。多くの国民がM M Tに早く気付き、再び豊かな経済大国日本となっていくことを願ってやまない。

※筆者の理解した範囲で記載しましたが、間違った理解をしている可能性もあるのでご指摘いただけると助かります。また引き続きM M Tについては研鑽を重ね、本H Pでも固定頁を設けて普及に努めてまいります。

前の記事

年金制度のゆくえ

次の記事

用地買収の補償にあたり