コロナ禍の東京の不動産動向

不動産が得意と言いながら、不動産に関するブログが少ない。これは実務に携わっていないと一時情報が取れず、ちまたに溢れた二次情報を基にして考察しなければならないためである。それでも今後コロナ禍で東京の不動産事情がどうなってゆくのか、1年間の実績を元に用途別に展開を予想してみたい。

一年間の実績

オフィス

緊急事態宣言下でテレワークが推奨されたが、その結果床の需要が減り、空室率が2019年12月の1.5%から1年で3ポイント上がり、2020年7月をピークに賃料が下がっている。特にI T系の企業が集積する渋谷地区での移転の動きが活発で空室率の上昇も他の地区を上回っている。(三鬼商事オフィスマーケット情報)

また、パソナが本社機能を地方に移転したり、電通やエイベックスが都心の本社を売却するなどの動きも出てきた。金融緩和による海外からの投資マネーがコロナでも比較的安全な東京の商業用不動産に半年で1兆6000億円余り流入してきた。(2020.10.3 N H Kクローズアップ現代+)

住宅

三密を避け郊外に広い住宅を求めて移転する動きが出てきた。書斎などのプラス一部屋を家でのテレワークに充てるためだ。

この社会流出現象は統計にも現れている。東京の人口は上昇を続け、2020年5月に初めて1400万人を超えたが、6月より一転減少に転じ、以来本年1月の段階でも減少が続いている。

一方で通勤距離を短くするために都心部のマンションの販売も好調で、首都圏のマンションの平均価格が30年ぶりに6000万円を超えた。(東京23区の平均は7712万円)住宅は二極化が起こっている。(不動産経済研究所)

商業施設

コロナで圧倒的な打撃を受けたのが商業施設であろう。米ではニーマン・マーカス等のデパートが経営破綻した。日本の百貨店も軒並み売り上げが落ち込み、インバウンド需要を目論んだ銀座シックスのテナントはごっそりと抜けた。

倒産企業の中では飲食業が一番多い。(東京商工リサーチ)消費行動は巣篭もりに伴いE Cマース(ネット通販)にシフトし荷物を保管・配送するための物流施設の需要が一気に高まった。

今後の予想

ここからは筆者の見通しである。

オフィス

企業にとってオフィスとは何かという位置づけが見直されるであろう。アイデアの持ち寄り場所か機密資料の保管場所か。仕事をするために人と直接会うことに大義名分が必要となり床需要は減っていくと思われる。

一方でコワーキングスペースとして郊外のサテライトオフィスの需要が増える。2021年は都心の大型オフィスの供給は少ないが、結局賃料が安ければ便利な都心に戻ってくるので(さいたま・幕張・横浜への分散は難しい)、やはり都心のオフィス開発は淡々と進むと思う。

住宅

社会流出現象が起きたものの、こちらに関しても住宅価格が安ければやはり都心寄りに回帰するのではないだろうか。よって住宅供給が減少に転じることは当面ないであろう。

所得格差が広がっており、富裕層は民間の開発する都心のマンション、アンダークラスは周辺部の住宅という二極化が起こる。(本来はマス層のためにもっと公営住宅を供給すべき)

また、来年2022年に指定期限を迎える約3164haある生産緑地がかなりの割合で宅地化され、これらは立地からして賃貸住宅よりも分譲住宅となる可能性の方が高いとみている。住宅選びの新たな選択肢になると考えられる。

商業施設

完全に業態転換を迫られる。店舗はショールームと化し、家でネット通販により購入する流れは止められないだろう。

余った商業床がどう活用できるか想像できないが、例えば興醒めではあるが百貨店にユニクロなどの大型量販店の出典が加速したり、バックヤードとしての活用に変わってしまうのであろうか。

日本も路線商店街が少なくなり、百貨店が少なくなり、「ららぽーと」のような大型商業モールも決して安泰とは思えない。生鮮食料品などを扱う(それでもAmazonは参入するとしているが)スーパーが逆に攻勢をかけていきそうである。

まとめ

オフィスと住宅の供給は微増、商業施設は需要減。

オフィス賃料は下がり借りて優位に、住宅は二極化、商業施設は大胆な業態転換が図られる。