最低賃金考
厚労省の設置する中央最低賃金審議会は7月14日、全国平均の最低賃金を時給930円に引き上げることを決めた。最低賃金は毎年10月に改定される。東京の最低賃金は現在1013円だが、改定後1040円台になる見込みである。
最低賃金の推移
政府は2021年6月9日、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」の原案に、地域間格差に配慮し、最低賃金「全国平均1000円」を早期に目指すと書き込んだ。
最低賃金はここ数年毎年3%UPを維持してきたが、昨年はコロナ禍で経営側の利益確保と雇用を守ることが優先され、ほぼ現状維持となった。

最低賃金はもはや家計補助労働の対価ではない
従来の最低賃金は、主婦が家計補助としてパートで働く際の金額というイメージがあった。
しかし、「最低賃金=家計補助賃金」という図式は最近の実態と合っていない。そのことを明白に示すものは、最近の最低賃金付近労働者の激増である。
正社員の中で、東京の最低賃金3割増し水準以下の賃金で働いている労働者の割合は、2007年には5.7%であったが、2017年には17.8%と3倍以上となっている。
正社員のうち6人に1人以上が最低賃金付近の賃金で働いているのである。
また、非正規労働者は90年代後半から激増しており、現在では4割弱の労働者が非正規で、その多くが最低賃金付近で働いていると思われる。
正社員の低賃金化と非正規労働者の激増は、もはや「家計補助労働」ではなく、労働者の家計の大きな部分を支えるものであると認識すべきだろう。
最低賃金で働いてみた
東京一人暮らしで、最低賃金付近でフルタイムで働いた場合の年間収入はどれくらいとなるのだろう。(ボーナスは無し、時給は1250円とし厚生年金と健康保険に入れるものとする)
毎月の収入
1250円×160時間=200,000円
(手取りは保険料と税金を引いた額となる 約163400円)
毎月の支出
・厚生年金保険料と健康保険料 約28000円
・雇用保険 約600円
・住居費 約65000円(生活保護の人は53700円までの賃貸アパートに入居可)
・食費 約45000円(1日1500円とする)
・教養娯楽費 約5000円
・水道光熱費 約6000円
・通信費 約3000円
・所得税・住民税 約8000円(年間約10万円とする)
支出合計 約160000円(一般的に夫婦二人の標準的な生活費は約25万円とされる)
収入−支出は、約40000円となり、貯金できる額はわずかである。車など持てるはずもなく、病気にもなれない。
諸外国の最低賃金
最低賃金の国際比較(G7)(2020年1月)
・日本 901円(地域別最低賃金の平均)
・アメリカ 778円
・カナダ 933〜1256円
・ドイツ 1139円
・イギリス 1183円
・フランス 1237円
出典:厚生労働省東京労働局
※アメリカは現在日本より連邦最低賃金が低いが、州別最低賃金がある場合はそちらが適用される。バイデン政権は2022年3月までに時給15ドル(約1600円)に上げる大統領令を出した。
※※韓国は2018年に16.4%、2019年に10.9%と大幅に最低賃金は引き上げ2020年の引き上げ率は2.87%だった。
(韓国は急に上げすぎたため失業者が増えたというマイナス面の評価もある)
では最低賃金はどうすべきか
最低賃金が790円で全国最低の佐賀県。昨年、県労働組合総連合は、「佐賀県で平均的な暮らしをするためには時給1600円以上が必要」とする調査結果をまとめた。
一人暮らしをする10代から30代の111人分を分析。「家賃34500円、中古の軽自動車を所有」など佐賀での平均的な暮らしにかかる費用を計算した。その結果、男女ともに月収24万円余りが必要で、時給換算すると現在の倍の1600円余りと算定されたということである。
日本国憲法第25条に、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」これは、国民には生存権があり、国家には生活保障の義務があるという意である。
(この理念に基づいて制定されているのが生活保護法である)
日本は現在、賃金をあげると中小企業の経営が厳しくなるということで、急激な最低賃金U Pということは難しい状況にある。しかしながら生存権を保障するという観点から最低賃金をあげることは喫緊の課題だ。
その策として政府がやるべきことの一つは、非正規労働者を正規に戻す仕組みを構築し直すこと。
もう一つは最低賃金の設定が労使のトレードオフなので、労働者側の不足分は政府が保障し、経営側には支援策を出していくことである。