日本の高校で始まる投資教育

平成30年の学習指導要領の改正で、高校の家庭科に株式や債権、投資信託といった金融商品等も含めたお金に関する学習が位置付けられ、令和4年度から実施することが決まった。

国策で「貯蓄から投資」を推奨する中、若いうちからマネーリテラシーを学ぶことが狙いである。アメリカの高校では既にお金の教育は始まっている。アメリカでは何を教え、日本ではこれから何を教えるべきであろうか。

アメリカの高校生が学んでいること

アメリカの高校では投資も含め、マネーリテラシー向上のためにお金のことを網羅的に学習している。「将来に備えて貯金をしよう」とか、「株ってなんだろう」というよくある話だけではなく、「社会でのキャリア形成の仕方」「起業の考え方」など、以下の項目まで全て含まれている。

・お金の基本的な計画

・就職・転職・起業

・貯金と銀行

・予算と支出

・信用と借金

・破産

・投資

・金融詐欺

・保険

・税金

・社会福祉

・法律と契約

・老後資産の形成

これらの内容を全て教えるために、半年や1年はかかるであろう。しかしここまで教えても破産するアメリカ人がたくさんいることも事実である。

日本で教えるべきこと

来年度からの実施を前に、金融庁、日本証券業協会、日本F P協会などの各種団体が出前講座の先行的な取組みを行なっている。金融庁や日本F P協会は既に副読本を作成しており、学校側からの要請に応じて必要な項目につき2コマ程度の授業を行なっており、先生や生徒の印象は概ね良好である。

最初は多くの時間を確保できないとして、何を優先的に教えるべきか。いきなり「貯蓄から投資へ」ではないであろう。まずは次の3つの観点が重要と思う。

  • 自分を守る
  • 自分の将来を考える
  • 新しい社会に適応する

自分を守る

2022年4月から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。その結果、高校3年生の誕生日を迎えた日から、親の同意が必要なく自らの意思で契約行為が可能となる。携帯電話の契約や一人暮らしのアパートの契約など、自ら行なった契約は簡単に取り消しができなくなる。また、キャッチセールスやマルチ商法などの悪徳商法による消費者被害に会わないことも極めて重要である。

そのため消費者の視点での教育は必須である。

自分の将来を考える

高校生では将来の職業選択をまだしっかりと決められないと思うが、今までの終身雇用の時代に考えられた職業選びから時代は間違いなく変化している。起業などの事例を紹介することも刺激となるかもしれない。投資による大富豪への道といった夢を持ってもらうのも良いであろう。

一生で稼げるお金、かかるコストやリスクを理解してもらい、ライフプランをイメージしてもらうことも大切である。

新しい社会に適応する

これは逆に若い学生の方が適応が早いと思われるが、急速に起きつつあるキャッシュレス社会への適応についても学ぶ必要がある。

インフラとなるスマホを全員が所有している社会が前提となるが、アプリを使った決済や個人間送金をはじめ、今後起こり得るフィンテックの新技術、デジタル通貨や暗号資産などの貨幣概念の転換など、経済の新たな動きにも若いうちから関心を持ってもらいたい。

まとめ

マネーリテラシーを持つことは、人生を豊かにする手段で、若いうちから学ぶことは大変重要であり、学習指導要領に位置付けたことは評価に値する。高校で学び関心を持った学生がF P3級等の資格を取得したり、ライフプランを今のうちから考えておくことは有意義なことである。

今後心配なのはアメリカのように網羅的に学ぶことをせず、一コマやっただけのアリバイ作りで終わらせてしまうことである。授業のコマ数を増やせば、自ずと他の授業時間が少なくなる。

今の学生は新たに学ばなければならないことが次々と増えて大変である。先生もお金の授業を持つことは難しいと思われるので、積極的にF P等の外部講師を活用してもらいたい。

(若尾F P事務所はで無料で出前講座を承ります。どうぞお気軽にお問い合わせください)

※参考 高校家庭科学習指導要項75頁

生涯を見通した生活における経済の管理や計画、リスク管理の考え方については、人生を通じて必要となる費用はライフステージごとに異なることについて理解して生涯収支に関心を持つようにするとともに、将来の予測が困難な時代におけるリスク管理の考え方について理解できるようにする。また、生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などのリスクへの対応策も必要であることについて理解し、預貯金、民間保険、株式、債権、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の面にも触れながら、生涯を見通した経済計画の重要性について理解できるようにする。