用地買収の補償にあたり

筆者は都庁で道路用地の買収業務に携わってきた。地権者との交渉に当たり営業センスが問われ、公務員の中ではノルマで評価しやすいジョブ型の業務である。

地権者にとっては土地建物が買収され大金が入るのは一生に一度あるかないかの一大事である。F Pとしてはその資金をどのように活用するかをアドバイスする立場にあるが、ここでは道路を早く造るには、行政、地権者それぞれどのような態度であるべきかを話したい。

公共事業が遅々として進まない理由

道路以外のダムや空港などもそうであるが、公共事業はとにかく進むのが遅い。計画が決まり事業化が決まり、用地買収が終わって、工事をして完成するまで大概20年はかかる。なぜここまで長い時間がかかってしまうのか、その理由を3点上げる。

計画策定の過程が不透明

多くの計画は変更がきかない段階になってから住民に情報が届く。住民説明会は住民参加のアリバイづくりのようなものである。民主主義社会においては計画を決めるまでに時間がかかる。ただ、議論を尽くしている間はまだ資本は投下されていない。計画決定にあたり住民参加の手続きを省くと市民の不信を招き、結果として用地買収に時間がかかってしまう。

行政マンの力量不足

自身の反省も込めて言うのだが、地権者との信頼関係を結ぶのが民間人に比べて公務員は下手である。人事異動も頻繁に行われる。漸く関係が結べたときに異動となってしまい、引き継ぎが十分に行われなかったりする。こんなことをしていると地権者との信頼はすぐに損なわれる。(築城3年落城1日)

また、地権者間で利益相反となる場合は民事不介入と言って率先して調整に入らない。深く介入してこじらせるのは問題だが、きちんと勉強して落とし所を踏まえつつ調整に入ることが必要であろう。

地権者の損得勘定

計画に反対する地権者の意向を無視して事業を強引に進めれば、反対する地権者は交渉のテーブルについてくれないだろう。最後まで反対する地権者は事業の最終段階で収用となるのはやむを得ない。問題は良い条件を引き出そうとしてなかなかテーブルに付かずに駆け引きをする地権者であるが、はっきり言おう公共事業にゴネ得は無い。

事業を迅速に進めるには

例えばその道路事業が渋滞解消が目的であれば、渋滞が発生していることによる無駄なコストは道路が完成するまでに毎年かかることになる。用地買収を開始した後であれば初期に投下した資金の利子が余計にかかる。これらの無駄を無くし、上記の遅延の原因を解決するにはどうすれば良いか。

計画の柔軟な見直し

計画は柔軟に見直すべきである。事業に着手する前であれば、例え法律に基づき定められた計画であっても現状にそぐわないものであれば、行政マンは見直しに挑戦的であってほしい。計画の策定に当たっては行政側が一方的に情報を持っており、市民はその非対称性に不満を持っている。情報公開を徹底した上で改めて計画の妥当性を評価するべきである。

行政マンの心構え

地権者との信頼関係の構築が大前提である。なるべく長期間担当させることはもちろん、個人個人でスキルを磨くことである。(それが組織として難しいのであれば民間に業務委託する方が時間もコストも節約できる)

現場担当者はある程度の裁量を持って望まないと、それは交渉ではない。公共補償は誰が評価しても同じ数値になることが原則ではあるが、所詮絶対的な評価などあり得ず、相対的な評価の中で幾ばくかの裁量(量がダメなら質)が与えられ、交渉の余地が生まれることを理解してもらいたい。

地権者の心構え

住まいの移転は大きな心労を伴う。それが公益であればこそ民間に売却するよりも若干手厚い補償が受けられる。補償の算定に疑問があればきちんと行政に説明責任を果たしてもらえば良い。それでも納得いかないのであれば情報公開請求をすることもできる。自身で組み立てた理論に説得力があれば、算定の内容も変わる可能性もある。とにかく交渉の窓口を閉さず常に対話を続けてもらいたい。

まとめ

公共事業がなかなか進まない原因と、早く進めるために行政、地権者双方の心構えを書いた。事業化が遅れることは当事者だけでなく、一般市民の損失もけして小さくないということを理解し、それぞれの役割を果たしてもらいたい。

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